本物のパンの味を、いつの日か
農園研修に参加していただいた千葉県で自然酵母のパンを作る「フレンドベーカリー」を経営する増田さん。日本から村の子供達へとパンを50個ほど持ってきてくれました。
せっかくですので、栄養補助プログラムに参加している子供達に食事を提供する時に、一緒にパンを配ろうということになりました。
マリンドゥケ州はフィリピンの中でも経済的に最も貧しい地域の一つです。学校に来る前に食事を摂ってない子供達も多く、お腹が空いて力が入らない状態で授業に集中できないのは、フィリピンの貧しい村では珍しいことではありません。
NPOが支援しているガサン村のプログラムでは栄養が理由で成長が基準に達してない53名の小学生に対し毎朝授業が始まる前に食事を提供しています。
小学校の朝は7時からと早いので、6時半出発の為には6時には起きないといけません。
前日の晩に、「明日は増田さんとパンを小学校に配りに行きますが、ご一緒したい方はいらっしゃいますか?」
と聞いたらなんと参加者全員の手が上がりました。
翌日の朝、皆さん体調大丈夫かなー 、ちゃんと起きてるかな・・と気になりながら宿泊施設のロビーに来ると、皆さんすでに集合していて、子供達のために折り紙で鶴を折っていました。
学校に到着すると、昨日出迎えてくれた際にプレゼントした鈴のアクセサリーを手首に巻いてくれている生徒もたくさんいました。
そしてミルクを片手にパンを待っている子供達に対して増田さんが、このパンがどのように作られているのかを説明してくれました。
フィリピンから海を渡って日本に届いたココナッツオイルやココヤシの花蜜などを使用して作られた自然酵母のパンです。
それがまたフィリピンに戻ってきて、この大地の子供達に食べてもらえるなんて、とても感慨深いものです。
何人かの子供達の顔には、天然酵母のもつ酸味に少し違和感を感じているのが見て取れました。
子供達は今日まで天然酵母パンと出会うことはなかったと思います。普段から慣れている砂糖たっぷりのパンと比べると、今回のパンは変わった味なのかもしれません。
いつか、彼らも大人になり都会に出たり、海外にでたりして、本物のパンに出会う時が来るかと思います。
その時はきっと、子供の頃ココヤシのことを学びに来た日本人が持ってきてくれたパンのことを思い出すでしょう。
子供の味覚は鋭く、体験した風味はその鋭い嗅覚とともに脳裏に焼き付きます。
子供の頃に食べたもの、それはたとえ一回でも一生の財産になると思っています。
パンをとおして出会うことのなかった人と人が、偶然つながっていく。
食べ物の素晴らしさ、重要性を改めて感じました。
枡田浩二